
マルセイバターサンドの発売日を知っている人は、たぶん少ない。
1977年5月14日。
ただ、この日付には、もうひとつの意味が隠れている。
同じ「5月14日」に起きた、94年前のもうひとつの出来事を知ると、
あの赤い包装紙が、少し違って見えるようになる。
宮崎県椎葉村でバターサンド専門店「菓te-ri(カテーリ)」をやっています、椎葉です。
年間24万個。これくらい焼いていると、ブランドが背負っている日付の意味が、自然と気になってくる。
今日は、公式の一次情報だけで、「5月14日」の謎を追います。

🎯 3秒で分かる「5月14日」早見表
- 1883年5月14日:晩成社(依田勉三率いる開拓結社)13戸27人が帯広に到着。十勝開拓スタートの日
- 1977年5月14日:六花亭が社名変更し、記念菓子「マルセイバターサンド」発売
- その間、94年。日付までぴったり一致
- 2つの「5月14日」が、ひとつのバターサンドに収束している
1977年5月14日、何が起きたのか
六花亭の公式沿革は、こう書いている。
1977年5月14日 東大寺管長・清水公照老師命名で社名を『六花亭』に商号変更 社名変更記念菓子『マルセイバターサンド』を発売
その日まで、会社の名前は「帯広千秋庵株式会社」だった。
1933年に帯広千秋庵として開店し、44年間続いた屋号を、この日に手放した。
命名は、東大寺の管長・清水公照老師。
「六花(りっか)」は雪の結晶を意味する。
北海道を代表する菓子屋になるように、という願いがそこに込められた。
そして、まったく同じ日に、社名変更記念菓子としてマルセイバターサンドが発売される。
新しい会社の名前と、新しい代表作の名前。両方が、5月14日に並んで世に出た。
普通に考えれば、ここでひとつの物語が完結する。
ところが、もう一段、深い物語が同じ日付の上に重なっている。
1883年5月14日、帯広に着いた27人
94年さかのぼると、同じ「5月14日」が、北海道・十勝の歴史で重要な日になっている。
晩成社(ばんせいしゃ)という開拓結社が、帯広に到着した日が、まさにこの日だ。
晩成社は、明治15年(1882年)1月、依田勉三を発起人として静岡で設立された。
資本金は5万円。政府から未開地一万町歩(およそ100平方キロメートル)の払い下げを受けて、十勝に入植する計画だった。
明治16年(1883年)4月、13戸27人が横浜港を出港。
函館を経由して、海陸二手に分かれて帯広へ向かう。
そして5月14日、帯広に到着した。
到着した時の帯広は、まだほぼ無人。
アイヌが10戸ほどと、和人が1戸あるだけだったと記録されている。
27人の入植者たちを、まず鹿猟の野火が襲い、次にイナゴの大群が襲った。
食糧として蒔いたアワも、天候不順とウサギ・ネズミ・鳥の被害でほとんど収穫できなかった。
翌1884年もまた、天候が悪く、開墾は遅々として進まない。
当初13戸あった移民は、数年で3戸まで減ってしまう。
晩成社は、農業では成功しなかった。
後に勉三が手がけた牧場経営の中で生まれたのが、「マルセイバタ」だった(これは別記事で詳しく書きます)。
94年越しの符合は、偶然なのか
整理すると、2つの「5月14日」はこうなる。
- 1883年5月14日:依田勉三率いる13戸27人が、帯広の地に第一歩を踏み出した日
- 1977年5月14日:六花亭が、その晩成社のバター商標「マルセイバタ」にちなんだ菓子を、新ブランド誕生記念として発売した日
六花亭の公式情報には、「1977年5月14日を発売日に選んだ理由は、晩成社の入植日に合わせたから」という直接の記述は見当たらない。
あくまで公式は、「東大寺管長による社名変更日と同日発売」とだけ述べている。
つまり、これは六花亭が公式に説明している「狙った日付」ではない。
偶然なのかもしれないし、社内的には意識されていたが対外的に明言されていないだけかもしれない。
ただ、菓子の背景にある依田勉三と晩成社の物語を知ったうえで、もう一度カレンダーを見ると、2つの「5月14日」を偶然で片付けるのは、少し難しい。
公式情報源で確認できる「日付の事実」だけを並べても、ここまで綺麗に一致するからだ。

マルセイバターサンドの中身に、その日付が乗る
六花亭公式の商品ページには、こう書かれている。
菓名の由来は、十勝開拓の祖・依田勉三翁が率いた晩成社により十勝で最初に作られたバター「マルセイバタ」にちなみ、包装紙もそのラベルを模しています。
(マルセイバターサンド5個入 商品詳細)
マルセイバターサンドは、5個入りで税込870円。
構成は、ホワイトチョコレートと北海道産生乳100%のバター、そしてカリフォルニア産レーズンを合わせたクリームを、ビスケットでサンドしたもの。
味そのものを支えているのは、3層の構造と素材だ。
ただ、赤い包装紙の中央に置かれた「○成」のマークは、純粋に味の話だけではない。
それは、1883年5月14日に帯広に着いた27人と、1977年5月14日に六花亭を発進させた人たち、両方の記憶を、ひとつのパッケージに畳み込んだものだ。
【職人の一言】日付を知って食べると、味が変わる理由
味は化学だ。
バター、砂糖、卵、小麦粉。配合と温度。それで決まる。
ただ、人が「美味しい」と感じる感覚は、そこに乗っている物語の重さで動く。
マルセイバターサンドの三層は、舌が捉える。
そこに、1883年5月14日と1977年5月14日、ふたつの日付が乗る。
これは錯覚じゃない。文化の力だと、僕は思っている。
次にマルセイバターサンドの赤いパッケージを開けるとき、5月14日という日付を、ちょっと頭の片隅に置いてみてほしい。
たぶん、いつもと違う味がする。
出典・参考(公式情報源)
- 六花亭公式「沿革」(https://www.rokkatei.co.jp/recruitment/outline/history/)
- 六花亭公式「マルセイバターサンド5個入」商品詳細
- 松崎町公式「依田勉三」(https://www.town.matsuzaki.shizuoka.jp/docs/2016020300172/)
- 集まれ!北海道の学芸員「『マルセイバタ』を売り込め!」(帯広百年記念館蔵史料)
- 依田勉三 Wikipedia 帯広入植経緯
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