「発酵バター」はなぜ別格なのか|年間24万個焼く職人の本音

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木製のチャーンと発酵バター

「発酵バター」と書いてあるバターサンドだけ、値段が一段違う。

なんとなく高級そう。なんとなくコクがある。
でも、本当に何が違うのかを説明できる人は、ほとんどいない。

これは、製法と歴史と地理が、ぜんぶ詰まった話だ。

宮崎県椎葉村でバターサンド専門店「菓te-ri(カテーリ)」をやっています、椎葉です。
年間24万個。これくらい焼いていると、自分の店で使うバターも、よそが使っているバターも、嫌でも詳しくなる。

今日は、公式の一次情報だけを使って、「バターの正体」を静かに分解する。

バターを攪拌(チャーニング)する伝統的な製造工程
Photo on Pexels

🎯 3秒で分かる「バター」早見表

  • バターの定義:乳脂肪分80.0%以上、水分17.0%以下(厚生労働省「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」)
  • 製法で2種類:発酵バター/非発酵バター
  • 塩で2種類:有塩/無塩(菓子作りは無塩が基本)
  • 日本:非発酵バターが主流(明治期に近代技術と共に導入)
  • ヨーロッパ:発酵バターが主流(紀元前から自然発酵で誕生)
  • 木製チャーンを使う高級バター:エシレ(仏)、ベイユヴェール(仏)

そもそも「バター」とは何か

厚生労働省の「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」では、バターは 乳脂肪分80.0%以上、水分17.0%以下 と定義されている。

残りの20%弱が、味と風味を決める。
ここに何が含まれるか、どう作るかで、バターは別の食べ物のように変わる。

大きく分けると、製法で2種類、塩で2種類。

  • 発酵バター:原料のクリーム(乳脂肪)に乳酸菌を加えて乳酸発酵させてから練る、もしくは、できあがったバターに直接乳酸菌を練りこんで発酵させる
  • 非発酵バター:乳酸発酵をかけずに、生乳から分離させたクリームを撹拌して脂肪球を凝集させる
  • 有塩:食塩を添加。保存期間が長くなる
  • 無塩:食塩不使用。「食塩不使用」と表記される。お菓子作りは一般的に無塩を使う

4種類の組み合わせで、「有塩・発酵」「有塩・非発酵」「無塩・発酵」「無塩・非発酵」がある。

発酵バターと非発酵バター、何が違うのか

違いは、製造工程に 乳酸菌が入るかどうか、それだけだ。

発酵バターは、乳酸発酵によって有機酸や芳香成分が生まれる。
これが、ヨーグルトのようなさわやかな酸味と、特有の芳香を作る。

一方、非発酵バターは乳酸発酵をかけない。
クセが少なく、ミルク本来の甘さがそのまま残る。料理のベースに向く。

「どちらが上」という話ではない。
ただ、菓子作りで「香りで殴る」表現を狙うなら、発酵バターのほうが明らかに有利だ。

なぜヨーロッパは発酵、日本は非発酵なのか

この差は、歴史の長さの差だ。

バターの歴史は古く、ヨーロッパでは紀元前からバター作りが行われていた記録が残っている。
当時の技術では、牛乳からクリームを分離するのに時間がかかった。
時間がかかる、ということは、その間に 自然と乳酸発酵が進む、ということだ。

つまり、ヨーロッパの「発酵バター」は、最初から狙って作られたものじゃない。
技術が未熟だったから、自然にできてしまったものだ。
それがそのまま伝統として残り、現在の主流になっている。

日本のバターの歴史は、それに比べると圧倒的に浅い。
今のような形のバターが定着したのは、明治時代以降。
近代的な製造技術と一緒に導入されたから、最初から「非発酵バター」として始まった
アメリカやオーストラリアも、日本と同じ理由で非発酵が主流になっている。

つまり、「日本のバターは非発酵」というのは、味の優劣ではなくて、その国でいつバターが定着したかの話だ。

高級バターの世界地図

ここからは、バターサンドに使われる代表的な高級バターを、公式情報だけで整理する。

エシレ(ECHIRE)|フランス・1894年創業のAOP発酵バター

フランス中西部・エシレ村(ヌーヴェル・アキテーヌ地域圏)で作られている発酵バター。
エシレ酪農協同組合の創業は 1894年

1979年に フランス国内のバターとして初めてAOCを取得
2004年の規定変更で、現在は A.O.P.(原産地名称保護) として認定されている。
A.O.P.とは、EUがその土地の伝統的な農産品を守るために、製造地域・原料・製造工程の規定を満たした商品にだけ与える認証だ。

製法は、昔ながらの 木製チャーン(攪拌機)
原料に使う生乳は、工房から半径50km以内の酪農家のもの限定。
搾ったばかりの生乳は、48時間以内にクリームに加工 される。

1900年のパリ万国博覧会で1等賞を受賞してから、世界中の三ツ星シェフや一流パティシエの定番として使われている。

ベイユヴェール(beillevaire)|フランス・1980年創業の木製チャーンバター

フランス西部、マシュクール村(Machecoul)の一軒の酪農牧場から始まったフロマジュリー。
創業は 1980年、創業者は酪農家のパスカル・ベイユヴェール。

こちらも、昔ながらの製法にこだわっていて、木製の攪乳機(チャーン)で発酵バターを作っている。
木製チャーンは、撹拌時の摩擦熱が少ない。
だから、乳の香りと風味がそのまま閉じ込められる。

日本初上陸は 2017年夏
ベイユヴェールの発酵バター(食塩不使用 125g)は、税込1,728円。
パリの5ツ星ホテルやミシュランシェフ御用達で、日本でも限定的に手に入る。

よつ葉発酵バター|北海道産生乳のチャーン製法

原料は 北海道産の生乳と食塩。
クリームに乳酸菌を加えて発酵させ、バターチャーンでじっくり練り上げる伝統製法で作られている。

113gで、賞味期限180日。
甘い風味に、ヨーグルトのようなさわやかな酸味と特有の芳香が乗る。
国産発酵バターのスタンダードとして、業務用でも家庭用でも広く使われている。

カルピス(株)発酵バター|「カルピス」副産物の幻のバター

これは少し変わった出自を持つ。

「カルピス」の製造工程で、牛乳から乳脂分を分離するときに出てくるクリーム分を主原料にしている。
そこに厳選した乳酸菌を加えて、発酵バターに仕上げる。

希少性は数字に表れていて、470mlの「カルピス」約40本から、ようやくバター1個分
このため “幻のバター” と呼ばれている。

特徴は、質のよい牛乳から脂肪分を分離して作られることによる、牛乳に近い白さ
日本人好みのさわやかなコクと香りを意識して乳酸菌が選ばれている。

2024年には、アサヒ飲料がこの発酵バターを使った『カルピス×発酵バターフィナンシェ』を発売している。

雪印北海道バター「The 発酵BUTTER」|国産発酵バターの新顔

「雪印北海道バター」から派生した、日本の発酵バター。
乳酸菌を加えて発酵させることで、発酵風味と香り、濃厚なコクを引き出している。
販売地域は 東日本(北海道、東北、関東、甲信越)限定

国内ブランドが「あえて発酵バターを作る」流れは、ここ十年で明らかに広がっている。

ワインとチーズのペアリング
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木製チャーン、という共通項

エシレと、ベイユヴェール。
創業年も創業地も違う2つのブランドが、同じ製法を選んでいる。

それが、木製チャーン(攪拌機)だ。

現代の工場では、ステンレス製のチャーンが一般的になっている。
ステンレスは均一に温度が伝わり、衛生管理もしやすく、量産にも強い。
それでも、エシレやベイユヴェールは木製を捨てない。

理由は、摩擦熱の少なさだ。
木は熱を伝えにくい。撹拌時に温度が上がりにくい。
だから、乳の香りと風味成分が壊れずに、そのままバターの中に残る。

「高級バター」と一口に言うけれど、値段の差は、こういう 非効率の積み重ね から来ている。

バターサンドで、バターが効く構造

ここからは、職人としての話。

バターサンドというお菓子は、結局のところ、バターが主役だ。
クッキーがどれだけ良くても、バタークリームのバターが弱いと、最後まで食べきれない。
逆に、バターがしっかりしていると、クッキーが少しシンプルでも十分に成立する。

各ブランドが、どこにバターの選択を置いているか。
ざっくり整理すると、こうなる。

  • 六花亭マルセイバターサンド:北海道産生乳100%のバター。発酵か非発酵かは公式では明示なし
  • PRESS BUTTER SAND:北海道産バターを使用。キャラメルと組み合わせて香ばしさを出す方向
  • ベイユヴェール バターサンド:自社製の発酵バターを使う
  • 菓te-ri(うちの店):宮崎県内の素材を中心に、製菓用無塩バターを使用

「発酵」「AOP」「木製チャーン」のような言葉は、商品ラベルだけ見ても気づきにくい。
でも、そのバターが、どんな歴史と土地と製法を背負っているかで、菓子の重さは確実に変わる

【職人の一言】バターを見れば、菓子の本気度がわかる

菓子を作る側にとって、バターの選択は、レシピそのものの選択だ。

発酵バターを使うと、コストは2〜3倍にはね上がる。
量産も難しくなる。
それでも発酵バターを使うブランドは、そこで勝負したい何かを持っているということだ。

次にバターサンドを選ぶとき、原材料表示を、ちょっとだけ見てみてほしい。
「発酵バター」と書いてあるかどうか。
書いてあれば、その商品は、味で勝つために 非効率を引き受けた ブランドだ。

たぶん、それを知って食べるだけで、いつもと違う味がする。


出典・参考(公式情報源)

商品の最新情報は、各メーカー公式サイトをご確認ください。

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